約 1,076,895 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/13.html
ギーシュ・ド・グラモンは武門の生まれである 父も、長兄も次兄も三兄も、常に戦の先頭に立って活躍している 「生命を惜しむな、名を惜しめ」とは 幼い頃から父に聞かされてきた家訓であった そして、今ここで彼は 「…ぐ、ううっ」 腰が引けていた ために一歩出遅れたのが彼の幸運であったのだろう 召喚したての使い魔、大モグラ(ジャイアント・モール)のヴェルダンテを あのおかしな平民にけしかけずにすんだのだから 向かっていった使い魔のことごとくがブッ飛ばされたのを見て 彼のファイティングスピリットはさらにくじけていた (冗談じゃあないぞ… なんなんだあれはぁぁぁ~~ 戦列艦が服着て歩いているのかぁぁ~~ッ 無理、絶対無理ッ あんなの勝てない、近寄りたくもないッ) 心の叫びが顔に出る 必死に隠したところでバレバレ 彼はそういう男だった だが そっと後ろを見る おびえ、ふるえる愛しい女子生徒達が告げていた 今こそグラモンの武勇を見せよと 「く、く、くぅッ…」 (くそぉぉ~~ッ 行くしかないのかぁ~~ッ ぼくが一体何をしたっていうんだぁ~~ッ) 彼はナンパ男だった しかも無類のミエッ張りだった ドバァッ しかし、流れる冷汗はやっぱりウソをつかなかった 足下の震えは武者震いだと自分で自分に言い張っていた 「およしなさいな」 後ろから呼ばれて振り向くと、額の汗がボダタァッと芝生に滴った そこにいたのは褐色肌のボンッキュッバンッ キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー グンバツのボディーを持つ女ッ!! 「ととと止めないでくれたまえよ、ミス・ツェルプストー ご婦人には、きッききき危険すぎるッ」 「逃げなかったのはホメてあげるけど、あなたのそれは『無謀』よ、タダの…」 「ぶっ侮辱はやめてもらおうッ!! このボクとて武門のはしくれッ 惜しむ生命などッ」 「はいはい、ゴタイソーな前口上はいいから下がってなさい …勝ちたいんでしょ?」 「あるのか勝算がッ!?」 「落ち着いて観察なさい」(つーかナンもカンガえてなかったのねアンタやっぱり) キュルケは鳥の巣頭を指し示す 生徒用の、教鞭状の魔法の杖の先端で ドッ ガズッ ドバ ちょっとだけタフな使い魔達が最後の戦いを挑んでいたが 全員コロリと昼寝するのは時間の問題だった 「見てわからない? あいつを中心に半径2メイルか3メイル」 キュルケの眼には見えていた 鳥の巣頭を中心とした、キレイな球形のシルエットが 最初にたくさん襲いかかっていったとき すでに観察を終えていたのだ 「アッ!!」 ギーシュにも、今見えた 鳥の巣頭がわざわざ相手に「走り寄った」のをッ 「1(アン)」 人差し指を立て、数字の1を示すキュルケ 「あいつは遠くの敵を殴れない」 次に別方向を示す まずは衛兵の方向を、続いてルイズの胸元を 衛兵の兜は頬と醜く混ざり合い、ルイズのマント留めもまたオカシな形に変わっていた キュルケは人差し指に加え中指を立てる 「2(ドゥー)、あいつに殴られたものは変形する」(リクツはゼンゼンサッパリだけど) 「ちょっと待て、ミス・ツェルプストー」 ブワァッ ギーシュの冷汗はスゴイ勢いで復活していた 改めて鳥の巣頭が恐ろしかった 「それは、つ、つまり……こういうことじゃあ、ないのかい 『殴られたら終わり』」 「ええ、その通り でも、『殴られなければいい』とも言えるわよね」 キュルケも決して恐ろしくないわけではなかった だが彼女の中で勝算は限りなく100%に近づいていた 「『殴られなければいい』だって? キミの目は…フシ穴なのかい?」 「あら、どうして?」 ビシイッ ギーシュは鳥の巣頭を指さしたッ 「あいつを見ろよ 怒ってるぞ――ッ 女王陛下のドレスの裾を踏んづけても気づかないくらい怒ってるぞ――ッ」 ムッ!? 鳥の巣頭は直感的に気がついた 誰か自分を指さした 笑われたような気がする ムカつく ぶっ飛ばす!! ズザザッ 駆け足ッ ギーシュの目の中で鳥の巣が次第に巨大化してくるッ 「ま…待て、こっちに、こっちに来るぞッ あんなのをキミはどうするつもりなんだぁぁ―――ッ」 「いいから落ち着きなさいな、みっともない…」(どうみてもアンタのせいでしょアンタの) 「これが落ち着いていられるかッ 父上、母上、兄上、ああっ先立つ不孝をお許し下さいッ」 ギュッ 胸元に指を組むギーシュは始祖プリミルの元に予約席を取りに走っていた ドドドドドドドドド 迫り来る死神 その名は鳥の巣ッ キュルケは他人事のように赤い髪を掻き上げ、 魔法の杖の先端を右手人差し指でピンピン弾いていた 「あなた、そんなにアレが恐ろしいの」 「恐ろしいさッ 怖いに決まってるだろ――ッ」 「でも安心なさい、もう恐れることはないわ」 「えッ なんでッ!?」 ビククゥッ 思わず縮めた身を伸ばし、キュルケの顔を見るギーシュ 自信満々の表情に今すぐ答えを求めていた 「なぜなら」 「な、なぜなら?」 グワッ キュルケの杖がピンと跳ねた瞬間に炎の塊が飛んでいく 鳥の巣頭に寸分違わず飛んでいく 「鳥の巣頭」に飛んでいく そして ボソァッ ボロッ ドザァッ 「…3(トロワ)!!」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「私がもっと怒らせるからよ、ギーシュ・ド・グラモン」 炎の塊は頭上をそれて飛んでいった 「鳥の巣頭」の前半分が、かすれた炎にえぐり取られて消えていた 今やそれは鳥の巣ではなく、前に飛び出たボンバーヘッドであった 「…う、うう、ウソ、ちょ、マ、マジ、そ、そんな ば…ば、ば…バカなぁぁ―――――ッ!?」 呆然とする鳥の巣男を前に、ギーシュの絶叫だけが響いた 「さぁて―――手合わせ願おうかしら? この、微熱のキュルケがッ」 ドンッ 決闘の手袋を叩きつけるがよろしく、 キュルケが前に、進み出たッ 3へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/139.html
「……は?今なんて?」 「だから私のダーリンがギーシュと決闘するって言ったのよ」 「そういう事じゃなくて何で貴方の新しいダーリンとギーシュが決闘する事を私に報告するのかしら?ツェルプストー」 「そりゃあダーリンが貴方の使い魔だからじゃないの……」 どこか遠くを見るような目でそう言い放つキュルケに対し (何?さっき打たれたばかりなのに惚れたの?キュルケってもしかしてドM?) と思い、自分の友人がそっち方面であったのかもしれないと思い多少ドン引く が、アブノーマル認定されかかっている事も知らずにキュルケが多少熱を帯びた言葉を続ける。 「そりゃあ急に打たれた時は驚いたわ…今までの彼は私自身や私の家を目当てで優しくしてくれたり甘い事を言ってくれた人ばかり… でも彼は違ったわ…貴族でもないのに私を対等に扱ってくれた初めての人よ…これが燃えられずしてどうするのよ!ヴァリエールッ!!」 もう微熱どころかイタリア・ヴォルガノ島火山より燃え上がっているご様子。 そして完全に放置食らってるルイズ、半分意識が飛んでいた。 「……………って決闘ぉ~~~~!?何プロシュートが?何でギーシュと!?」 そして、数秒送れて肝心の本題に気付く。 「彼プロシュートって言うの…ステキな名前ね…」 完全に自分の世界へ入っているキュルケ嬢。なんかもうルイズの目に『ラリホ~』と言いながら周りを浮かぶ趣味の悪いピエロが見える。 「早くあいつを止めないと大変な事になる…!止めなきゃ!」 (ギャラリーが出来きるであろう決闘で召喚した時にあいつが使った妙な能力を使われたら大惨事になる) という事からプロシュートを止めるという事だったがもう一人の方は 「いいじゃない…平民が勝てないと分かっているメイジに挑む…燃えるわぁ~」 などとキュルケがのたまう。 (駄目だこいつ……!はやく何とかしないと……!!) 一瞬だがそういう思考が頭をよぎるが『決闘』という重大事にそれを後回しにする。 半分トリップキメているかのようなキュルケを後にしプロシュートを探す。 居た。というか凄まじく目立っているためほとんど探す必要も無かった。 ちょ、ちょっと!ギーシュと決闘するってどういう事!?」 「仕掛けてきたのはヤツの方だぜ」 (マズイ…!目が本気だ…!) 「人が大勢居る場所であんな物騒な事しないでって言ったばかりじゃない!」 「誰がアレを使うと言った?対処法がバレると厄介なんでな、使うつもりはねぇ」 授業をロクに聞いてはいなかったが水系統の魔法で氷が作り出せるという事は聞いていた。 グレイトフル・デッドの老化に対して唯一有効な手段である「体温を下げる」 生徒とはいえあの大人数の前で広域老化攻撃を使えばそれがバレる可能性がある。 後の事も考えればそれは避けたいとこだ。 「それじゃあアンタに勝ち目なんてあるわけないじゃない!今すぐギーシュに謝ってきて!」 「無駄だな、ヤツは完全にプッツンキてる。例えオメーが謝ったところでどうにかなるもんでもねぇ」 「ああもう、それじゃ逃げなさい!私から何とかうまく言っといてあげるから!」 「ヤツはオレに決闘を挑むという覚悟があってやってるんだぜ? 一時身を隠したとしても必ず追ってくるだろうよ。だからこっちが先に『やられる前にやる』んじゃあねーかッ!」 プロシュートがそう言い放ちルイズをその場に残し広場に向かう。 「……怪我じゃすまないかもしれないのにどうするのよ!」 だが、ルイズが思い違っている事が三つある。 一つは「グレイトフル・デッドというスタンドの存在」 二つは「プロシュートが一級の暗殺者」 そして三つめ「プロシュートにとっての『やる』は『殺る』」であった事… そして『ヴェストリの広場』 「遅かったじゃないか… 逃げ出してしまってたものかと思っていたよもっとも、逃げたところで無駄なんだけどね!」 「殴られた後が顔に出てるぜ?まぁその方が人気が出そうだがな」 「ぐッ…!平民が貴族を馬鹿にした報い受けさせてやるッ! 僕はメイジだ、だから魔法で戦う。よもや文句はあるまい!」 ギーシュが薔薇の造花を振るうと花びらが一枚離れ金属製の人形が一体出現する。 「青銅のゴーレム『ワルキューレ』僕が青銅のギーシュと呼ばれている由縁だッ!」 「その名前ならさっき頭から香水をブチ撒けられた時に聞いたな」 「いつまで減らず口を…!まぁいい、この一体だけで片付けてあげるよ!」 ワルキューレが猛然とプロシュートに突っ込んでいく。 だがプロシュートは動かない。しかし目だけはワルキューレを凝視している。 ワルキューレとプロシュートの距離が2メートルを切りワルキューレが拳を繰り出す。 だが拳が目標に当たりそれを砕く瞬間拳の軌道が瞬時に変わった。 「何ッ!?」 「今の見たか!?」 「ワルキューレの拳の軌道が急に変わったぞ!」 そうギャラリーが騒いでいる間にもワルキューレは両の拳を繰り出すが全て当たる直前に軌道を曲げられてしまう。 「こいつ…!平民のはずじゃないのか!?」 「フン…ノロいな、その程度のスピードじゃあスティッキィ・フィンガースに遠く及ばねー」 自分が最後に戦ったスタンドの名を出しながら性能をS・Fと比較する。 「確かに人間と比べては優れちゃあいるがそれだけだな、特徴としては堅さぐらいか」 そう言い終えた瞬間――ワルキューレが腕と脚と全て弾けさせ砕けた。 「確かに正面装甲は堅いが…関節部はそうでもねーな」 「な…僕のワルキューレに何をした…? 何をしたと聞いているんだ!答えろォォォオオ!!」 「…………」 無言でギーシュを見据えるプロシュート。だが自慢のワルキューレを破壊されたギーシュはそれを挑発と受け取る。 「いいだろう…言いたくないのならそれでいい!嫌でも言いたくなるようにしてやるさ!」 薔薇の造花を振るい6枚の花びらを舞わせ残り全てを出現させる。 ――ギーシュが平民相手に本気になった。そう思った観客が騒ぎ出す (ちッ…六体か) プロシュートのグレイトフル・デッドはそれ自体の拳の射程距離だけなら近距離パワー型に属する。 だがヴェネチア超特急クラスの列車丸ごとをカバーできる老化の射程距離。 これが他の近距離型スタンドとグレイトフル・デッドの差だ。 パワーそのものは近距離型に劣るとはいえある程度のものを有するもののスピードと精密動作性が致命的に劣っている。 それを埋める為の老化だが今回はそれを使っていない。―――つまり ワルキューレの内三体がプロシュートを襲う。 さっきと同じように拳の軌道が変わる、観客達はそう思った。だが結果は違っていた。 ズドォォオオ 一体ワルキューレが吹っ飛ぶ、だが残り二体がその隙を襲う。 片方の攻撃を弾くが、もう片方は間に合わない。 ボゴォ 「うごォっ!」 横からの攻撃を受け吹っ飛ぶ。そしてそれを見たギーシュが勝利を確信したかのように勝ち誇る。 「君のその妙な能力はワルキューレ一体には抗えても複数体だと無理みたいだね その弱点が分かったからには次は残り全てでやらせてもらうッ!土下座するならいまのうちだッ!」 (骨には問題ねぇが…内臓を少しやられたみてぇだな) 立ち上がりギーシュに向き直る、だがその口からは血が出ていた。 「フン、血ヘド何て吐いて神聖な決闘を何だと思っているんだい? まぁ使い魔だけあって少しだけ妙な力があるようだが魔法を使えるメイジに勝てるはずないのさ!」 だが次のプロシュートの言葉はギーシュにとって意外だったッ! 「ハァー…ハァー…それがどうした?」 「何だって…?」 「それがどうしたと言ったんだ」 「この後に及んで強がりかい?みっともないねッ!」 だがそれに構わず言葉を続ける。 「確かに魔法ってのはスゲーもんだ、オレだってそう思う だがなッ!オレが居た場所には空気そのものを凍らせるヤツやあらゆる物体を切断できるヤツなんてのが居るッ!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ (何だこいつ…!?周りの空気が急に変わったぞ!) 「オレ達チームはなッ!常にそういう連中を相手にしてきているッ! オメーらみてーなマンモーニが使う薄っぺらい魔法なんかと一緒にするんじゃあねぇッ!」 「…ハッタリのつもりかい?だとしたらメイジも甘く見られたものだ。いいだろう!もう手加減なんてのは無しだッ!」 ギーシュが武器を精製しそれぞれのワルキューレに武器を取らせる。 どれもこれもマトモに受ければ良くて重症、悪ければ死に至るものばかりだ。 「後悔する時間も与えないッ!」 残った6体のワルキューレをプロシュートを囲むようにして布陣させる。これでもう逃げ道は無い。 ギーシュの号令を待つように囲むワルキューレ達、観客の誰が見てもギーシュの勝ちは明らかだと思っている。 ルイズがそれを止めようと観客達を押しのけ間に割って入ろうとする。だが遅かった。 「行けッ!ワルキューレ!!」 そう聞こえた瞬間ルイズはその場に立ち竦み己の使い魔がなぶり殺しにされる光景が脳裏に浮かび――倒れた。 その声を合図としプロシュート目掛けワルキューレが殺到する。 だがプロシュートが取った行動は実にッ!意外だったッ! 普通4方から囲まれているなら身を守るのが当然だッ!だがプロシュートは逆に…… 『思いっきり突っ込んだッ!』 一体のワルキューレ目掛け猛然と突っ込む。その先にはギーシュが居る。 「一体だけなら対処はわけねぇからなッ!」 「ば、バカなッ…!」 固まって動かれればワルキューレの層を突破できない、だから自分を囲ませるように仕向けた。 そうして包囲網が縮まる前に一点突破を仕掛ける。それが狙いだ。 グレイトフル・デッドでワルキューレを投げ飛ばす 壊すのは時間の無駄と判断しての事だ。 「くそぉ…来るなァァァァアアア!!」 ギーシュにさっきまでのような余裕はスデに無い。狼狽しながらも魔法を使うべく杖をプロシュートに向ける。 だが当たらない、ギーシュがいくら魔法を撃っても一発たりとも当たらない。 拳銃と同じだ、落ち着いて心を決めていなければ魔法といえども当たるはずはなかった。 後ろから6体のワルキューレを引き連れたプロシュートが迫り薔薇の杖をグレイトフル・デッドでヘシ折った。 「うぁ……あ…ま、参った…」 貴族が平民に負けた、誰もがそう思った。そしてこの決闘が終わったと思った。 否、実は終わってなどいない(古谷 徹の声で) どこからか『倍プッシュだ』というような声が聞こえたが多分幻聴だ。 「参った…そんな言葉は使う必要がねーんだ… なぜならオレやオレ達の仲間が敵と戦った時の決着は」 次の言葉で観客達のほぼ全てが凍りつく 「どちらかが死んじまってるからだッ!だから使う必要がねェーーーーッ! オメーもそうだよなァ~~~~『決闘』を挑んできたんなら…分かるか?オレの言ってる事…え?」 「ひぃ…!こ…殺される…助け…」 だがその言葉は最後まで言えない、グレイトフル・デッドが首を掴みギーシュの体が中に浮く。 「ギ、ギーシュが浮いたぞ!」 「いや…違う!見ろ、首を何かに『掴まれて』いるッ!」 グレイトフル・デッドは見物人達には見えないが何かに首を掴まれている跡だけはハッキリと見えた。 ズキュン! 「何だァーーーーーッ!あれはァーーーーッ!!」 観客達が騒ぎだす。当然だ、ギーシュがあっという間に老人の姿になったのだから…! 「うわぁぁぁぁ!やっぱり…あれは夢じゃあなかったんだッ!『ゼロ』の呼んだ使い魔は…悪魔か何かなんだァーーーーッ!」 そう叫ぶのは最初に巻き込まれた連中だ。それを皮切りに他の者が次々と騒ぎ出す。 ドザァァア ほとんどミイラと化したギーシュが地面に崩れ落ち、周囲から悲鳴や怒号が上がる。 中にはプロシュートに杖を向けている物さえ居る。 だがプロシュートはあくまで冷静に言い放つッ! 「これぐらいの事で騒ぐんじゃあねぇッ!オレがいた世界ではな! 決闘を仕掛けて『参った』なんていう負け犬は居ねーんだからな…」 ピクリとも動かない元ギーシュの首に足を乗せ―― 「『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!!」 その言葉と同時に広場に乾いた音が鳴り響びく。この場を見ていない者であれば枯れ木を踏んだかのよに聞こえたであろう。 そして、その瞬間その場に居た者達は理解をする。 仕掛けられた決闘とはいえ貴族を―メイジを顔色一つ変えることなく滅せる者がただの平民ではないという事を。 ギーシュ・ド・グラモン―死亡(頚椎骨折) 二つ名 「青銅」 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/490.html
おれたちは馬車にのってフーケの隠れ家に行くらしい。 どー考えても罠だ。だってそこに行くための馬車を動かしているのがそのフーケなんだぜ? でもおれはそれを言わない。 何故かってーと我が敬愛するご主人様はそんな事聞いてこないからだ。 いやー使い魔の見本だねおれは。 しばらくして馬車が森の深い所に止まった。 「ここからは徒歩で行きます」 フーケがそう言った。 「よし、行くわよ」 気合のはいってるご主人様。 がんばれよ、応援してるぜ。 フーケの隠れ家(絶対隠れてないけど)は空き地のような所にあった。 作戦はこうだ。偵察兼囮が小屋のそばに行って、中を確認。 フーケがいれば挑発しておびき出す。 そしてその肝心の偵察兼囮は誰がやるんだ? 「すばしっこいの」 黙れタバサ。顔がいいからって怒らないと思うなよ。 「それに使い魔なんだから見たものをルイズも見れるでしょ?」 黙れキュルケ。胸がデカイからって…怒れないな、おれには。 「う…そ、それは…」 「何?もしかして出来ないの?m9(^Д^)プギャー」 「m9(^Д^)プギャー」 タバサまでやりやがった。 空気を読んでおれもm9(^Д^)プギャー ルイズに蹴られた。何でだろ。 小屋の中には案の定誰もいない。おれはルイズたちに報告する。 「だれもいないぜ~~~~~!」 「大声を出すなぁ!!近くにいたら気づかれちゃうでしょ!!」 ビックリマーク二つだしお前の方がデカイじゃねーか。 警戒しながら小屋の中にはいるルイズたち フーケのヤツは「辺りを偵察してきます」とか言っていなくなった。 コレ絶対ゴーレム来るよ。ルイズの魂をかけてもいい。 小屋の中が騒がしい。どうしたんだ? 「秘宝があったのよ!」 そりゃ良かった、なら早いとこ帰ろうぜ。ゴーレム来るから。 いやもう後ろに来てるから。 「ルイズー後ろ後ろ」 「後ろ?後ろに何があるって…くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」 声にならない悲鳴。 パニック全開のルイズ。それを落ち着かせたのはおれの後ろから聞こえてきた言葉だった。 「うろたえるんじゃあないッ!フーケ討伐隊はうろたえないッ!」 勇ましい言葉だ。でも誰が言ったんだ? おれがその声の主を探すために振り返るとそこにいたのは… 意外!それはタバサッ! タバサの発言でゴーレムなんかよりタチの悪いパニックに陥ったルイズ。 だがキュルケとタバサは違った。魔法でゴーレムに攻撃する。 炎の玉と氷の矢の二重攻撃。こうかはいまひとつのようだ。 「どーすんだよ、効いてねえじゃん」 おれの言葉にキュルケは不適な笑みを浮かべる。 「ツェルプストー家には代々伝わる戦法があるのよ」 「おお!それは何だ?」 「それは……逃げる!」 「わあ~~~!!なんだこの女ーッ」 おっとボケてる場合じゃねぇな。確かに逃げねえとヤバイ、という事で 「ワオ~ン!(降りて来いッ!)」 おれの指示通りに下りてくるウインドドラゴンのシルフィード。 「タバサ、これ貴方の使い魔でしょ?あらかじめ待機させてたの?やるわね」 え?手下二号はタバサの使い魔だったのか? 「……」 「きゅいきゅい(お兄様の指示通りにしたのね!)」 タバサは何も言わない。どうやらお咎めは無しらしい。さっさと逃げよう。 手下二号にみんなが乗り込む。アレ?ルイズがいないぞ? 振り返って見てみると、ゴーレムに杖を向けてた。 「なっ!何をやってるだァ―――――ッ」 「敵を前にして逃げるなんて!そんなの貴族じゃない!」 ゴーレムを爆発させる。あまり効果はない。 「わたしは貴族よ。魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ」 再度爆発させる。やはり効果はない。 「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」 「後で拾いに来いッ!」 手下二号に指示を出し走り出す。 ゴーレムがルイズを踏み潰そうと足を上げる。 だがその前にッ! 「ザ・フール!」 ザ・フールのパワーじゃゴーレムを止められない。でも砂で目くらましくらいは出来る。 おれは砂粒で相手の視界を奪い攻撃目標を見失わせ、ルイズの元へダッシュする。 そしてそのまま砂を使って自分たちのことをカムフラージュする。 「何やってんだお前!」 「だって…悔しくて…」 お、何かいつもより弱々しいぞ。今のうちにもっと罵っておこう。ってあれ? 「おい、何だそれ」 ルイズの持っている物をアゴで示しながら聞いてみる。 「ああ、これが秘宝よ。『魔除けの首輪』これがあれば敵が襲ってこないらしいわ」 「…それがか?」 おれはちょっと考えこんで、気が変わった。 「フーケを倒すぞ」 「え?」 おれはフーケの臭いを見つける。 そしてゴーレムが自立行動型だったとしても間に合わない速度でザ・フールをブチ込むッ! おれが戦闘を初めてから二行。ギーシュよりも短い時間でフーケを倒した。 「ちょっと!何ミス・ロングビルを攻撃してるのよ!」 「こいつがフーケだからだ」 「え?何言ってるのよ?何の証拠があってそんなことを言うの?」 「ゴーレムが止まってる。それが証拠」 「え?あ、ホントだ。…よく場所が分かったわね?」 「え?それは…えーと、ホラ、他の臭いが無かったから分かったんだ」 ホントの事言ったら怒られるだろうしな。 そして学院長室前。ルイズたちが今回のことを報告してるって訳だ。 おれは報告が終わったら話したいことがあるのでここで待機だ。 「失礼します。イギー、質問いいってよ」 やっとあの『秘宝』について聞ける、フーケを捕まえたのも無駄じゃなかったな。 「いらっしゃい。聞きたいことが色々あるじゃろうが大体分かっておる。左前足のルーンの事と秘宝のことじゃろ?」 左前足のルーン?なんだそれ? 左前足を見てみる。そこにあるのはおれの美しい足…に何か書いてある。 「何じゃこりゃあぁぁぁぁ!?」 どうやらコレは使い魔のルーンと言うらしい。ルイズの使い魔の証なんだとか。 「ガンダールヴの印でな、伝説の使い魔の印じゃよ」 「伝説?」 「そうじゃ。ガンダールヴはありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ。お主も武器を持てば強くなるかもの?」 「おれ犬なんだけど」 「それがどうしたんじゃ?」 「武器をどうやって持つの?」 沈黙の学院長室 「それは…こう、後ろ足で立って前足で扱ったり、あとは口にくわえたりとか」 「難しそうだな」 そして秘宝についての話はこうだ。 百年以上前にオスマンが森で倒れていて 森にいる獣たちに襲われそうになった時 犬が一匹現れて獣たちと睨み合い、 戦う事無くその獣たちを引かせたそうだ。その上木の実等の食料もくれたとか。 オスマンはこの犬に感謝したがこの犬は別の獣と戦った傷跡がたくさんあり、 もう瀕死の状態だったとらしく、そのまま息を引き取ったらしい。 オスマンはその犬の墓を作りこの犬の首輪を形見として持ち帰り、 『魔除けの首輪』として秘宝扱いした。 おれは話を聞いていてその犬が獣たちを引かせたのは きっとその獣たちのボスが『こいつは精神的にも貴族だ』とか何とか言って気に入ったからだと思っていた。 そう思ったのも首輪にあった名前を見たからだ。 「そういえばこれ、文字だと思うんじゃがお主、読めるかのう?」 「『ダニー・ジョースター』だ」 きっとおれの知っているジョースターと同じ意味だろう。 ジョースターはやっぱり凄いんだな。 そんなことを考えながら学院長室を出た。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/764.html
(あー、私ったら本当にご主人様失格だわ…) ポルナレフがキュルケの部屋で熱烈なアプローチを受けている時、ルイズは一人部屋で自責の念にかられていた。 あの時、亀とだけ契約したつもりが、何故かポルナレフも一緒に契約されルーンが刻まれてしまった。 とすれば直接契約していないとしてもポルナレフも亀同様に自分の使い魔のはずなのに自分はポルナレフだけを追い出した上にそのポルナレフに、使い魔は亀だけで良い、と言った。 実際本人も嫌々していたようだし、自分も平民付きより亀だけの方がずっと使い魔らしくていいと思う。 しかしポルナレフが言った大切な物が何かは知らないが、亀ごとそれを取り上げ、全く行く宛も無いのに追い出してしまうのは外道以外の何でもない。 それを本当にやってしまうとは自分はなんて最悪な御主人様なんだろうか。彼に謝って、亀を返そう…。 そう決意するとドアを開け、廊下に出た。 暗くなっていたので、とりあえず誰かに探すのを手伝って貰おうと考えたその時、キュルケの部屋のドアをぶち破って男が出て来た。 紫の眼帯、ハートが半分に割れたような金の耳飾り、そして立てた銀髪。 ルイズが探そうとしていたポルナレフ本人だった。 更に部屋の中に下着姿のキュルケが見えた。 そしてポルナレフもキュルケもほぼ同時にルイズに気付いた。 時が止まる。 「あああ、あんた達何やってんの…?」 ポルナレフは激しく後悔した。もっと早く逃げるべき、いや、そもそも入るべきじゃなかったと。 「こ…これはだな、その…俺がそこの小娘の使い魔に連れられてな、中で立ち話していただけだ。何もしていないぞ。な?」 ポルナレフはキュルケの方を向いて、弁護を要請したのだが、 「いやぁ、あんたの使い魔、中々情熱的だったわ。結構ガッシリした体つきしてるし期待してたけど、期待以上だったわ。また貸してね。」 キュルケはそう出鱈目を言うと、部屋に戻り服を着ると呆然としている二人を置いてどこかへ去っていった。おそらくドアの代わりになるものを探しに行ったのだろう。 「まさかとは思うが…あいつの言ったことを信じてないよな?俺はこう見えても30過ぎてて、あんな小娘の色仕掛けになんか…」 ポルナレフは必死になって弁明した。 「…もういいわ、見苦しい。言い訳なら部屋で聞く。」 そう言って踵を返し、部屋に戻って行った。明らかにキレていた。 それから二時間ほどルイズの部屋から、鞭が空気を裂く音、それをナイフで切り裂く音、ルイズの罵声、ポルナレフの悲鳴に似た叫びが響いてきた。 「ハァ……つ、つまりあんたは…ハァ…単に誘惑されてた…ハァ…だけって事?」 ようやくルイズは息を切らせながらも納得したかの様に言った。ちなみにルイズの周りには切られた鞭が散乱している。 「ハァ…ハァ…そういうことだ…。」 ポルナレフは憔悴しきった様子で言った。たとえガンダールヴでも二時間も切り合いしてたら疲れたらしい。(本人は知らないが) 「ハァ…ハァ…!それならいいわ。しかしツェルプストーめ…私の使い魔にまで手を出すつもり!?」 ルイズは苛々した様子で爪を噛んだ。 「やれやれ、なんだ?『まで』って?なんか前にもあったのか?」 ポルナレフはルイズに尋ねた。 ルイズはポルナレフに自分の実家ヴァリエール家とキュルケの実家ツェルプストー家の数世代に及ぶ奇妙な因縁を話した。 「…という訳よ。ただでさえ国境を挟んで隣あってるのに、そのせいでヴァリエール家とツェルプストー家は有り得ないぐらい仲が悪いの。」 「そのせいであんなに怒ったのか。てっきり独占欲かと思ったがな。ほら、飼い犬が他の人になつくとムカつくって奴だ。」 ポルナレフがうんうんと頷く。 「その通りよ。だからあんたも他の女だったらいいけど、ツェルプストーの女だけは駄目よ。あんたは私の使い魔なんだからね!」 ルイズはズビシッとポルナレフを指差した。 「分かった分かった。まあ、女遊びはもうとっくの昔に卒業したんだがな…」 ポルナレフは若い頃は遊びほうけていたが、ディアボロに追い詰められて以来隠者みたいな生活を送っていたため、欲をセーブ出来るようになっていた 「分かればいいのよ。」 ルイズはそう言うと大きな欠伸をし、ネグリジェに着替えだした。もう見慣れた光景なのでポルナレフは無視してとっとと寝ようと藁の方に近寄った。 「あ、そうそう。ポルナレフ、これ。」 ルイズが何かを投げて寄越した。それは亀の鍵だった。 「…どういう風の吹き回しだ?」 「あんたさっきその中に大切な物があるって言ったでしょ?だから返してあげるわ。 それと中で寝ることも許してあげる。そのかわり明日その藁を捨ててきなさい。」 「ああ…そういうことか。すまないな。」 もっとも鍵を取られていた理由がわからんがな、とポルナレフはひそかに思った。 「なんであんたが謝るのよ。むしろ…私こそ亀だけでいいとか言って…部屋から追い出して…その…ごめんなさい…」 ルイズは赤面しながらぼそぼそとだが、ポルナレフに謝った。 ポルナレフはそんなルイズの態度に一瞬ポカンとしたが、すぐに微笑んだ。 ルイズが恥ずかしがりながらも精一杯謝るその姿は、ポルナレフにはまるで妹か娘の様で実にほほえましかった。 そしてその晩、ポルナレフは久しぶりに亀の中のソファで熟睡した。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2500.html
左手に焼き鏝を当てられたような痛みが走った。気がつくと左手になにかの文字が浮かび上がっている。 まさか…おれは使い魔になってしまったのか?このディオがッ! おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第二話 「それでは儀式は終了だ。各自寮に戻るように。解散!」 コルベールが告げると生徒達は思い思いに帰って行く。ある者は召喚獣に跨り、ある者は『フライ』を使い…そして後には 「ゼロのルイズ、てめーは歩いて帰れ」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえもまともにできないんだぜ」 「悪いね、ルイズ。ボクの使い魔は一人用なんだ」 「なんならその使い魔に背負ってもらったらどうだー?」 次々と空に浮かび上がる生徒を呆然と眺めるディオとルイズだけが残されていた。 『ジョナサンを殺して人間を超越しようとしたらいつの間にかピンク色の髪をしたガキの使い魔になっていた』 な…何を言っているのか(以下略 次々と空を飛んで帰っていく生徒達を黙って見つめていたルイズは自らの使い魔に向き直ると大きく息を吸い込んで 怒鳴ろうとして… 「それでは説明してもらおうかッ!これがどういうことなのかをッ!」 使い魔に機先を制されて言葉を飲み込んだ。 「…ハァ。あんた全然状況を理解していないのね。」 使い魔を使役する為には主人が絶対の上にいる事を使い魔に理解させなくてはいけない。 「いいわ、歩きながら話しましょ」 これからが苦労しそうだとルイズは密かにため息をついた。 「まずはじめになぜ彼らは空を飛んでいるんだい?」 このハルケギニアに魔法を知らない平民がいるとは知らなかった。たぶんよほどのド田舎か山奥にでも住んでいたのだろう。 いわゆる『どこいな』である。 「そりゃ飛ぶわよ。メイジなんだから。レビテーションくらい知ってるでしょ?」 ディオの住んでいた世界で人間が空を飛んだのは1852年の飛行船が初である。飛行機に至っては1903年まで待たなければならない。 だがディオはその少ない情報からここが異世界である事、ルイズ達がメイジ…魔法使いと呼ばれる特権階級であり 魔法で空を飛ぶ事は彼らにとって当たり前の事だと言うことを理解した。 その後ディオは歩きながらルイズからこの世界について聞き出した。ハルケギニアについて、メイジについて、 トリステイン魔法学院について、そしてルイズについて…。そして部屋に着くころにはディオはこの世界について概ね把握していた。 一方ルイズも何時間もかけてディオが違う世界から来たであろう事をなんとか理解した。 「なるほど、ぼくが今君の使い魔であるという事は理解したよ、ルイズ」 優雅な格好で窓に腰掛けながらディオは夜食を取っているルイズに語りかけた。ディオに渡された夜食は潰れたパンだけであったが。 「そう、よかった…。」 ちなみにルイズはディオを完全な平民として扱うことに決めた。 ディオの一つ一つの物腰は貴族の気品を感じられるものであったが、ルイズには魔法が使えない貴族というものがどうしても理解できなかった。 それに礼儀程度はどこかの裕福な商人の過程であれば身につくものだ。 ちなみにディオはダリオのことを欠片も話していない。話す価値もない『無駄』な事だからだが、話したところで ディオが貴族ではなく平民であるという事を隠すための言い訳ぐらいにしか捉えられなかっただろう。 「あんた、元の世界に帰りたいと思わないの?」 夜食をすませ、口元をナプキンで拭きながらルイズは尋ね、ディオはなんの躊躇いもなく答える。 「ああ、元の世界は色々と住み心地が悪くてね。今更帰る気はないよ」 ジョナサンに虐待されていたと嘘をついてもいいがこの甘ちゃんのルイズ(暫く話している内にあの鬱陶しいジョジョと似たものを感じた) はまず間違いなくディオに同情するだろう。そしてディオは自分が憐れまれることを何よりも嫌う人間であった。 ルイズはこの一日で非常に疲れていた。 召喚に成功したと思ったら出てきたのは平民だし、その上扱いにくい事この上ない。 まるで一見大人いように見えながらも絶対に人を乗せようとしない馬のようだ。 同じ使えないならこんな高慢ちきな奴よりどこかの少しスケベでも従順な馬鹿犬のような使い魔の方がよかった。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずだけどそんな兆候は全く見えないし 主人の望むものを手に入れてくる事も無理。かといって私を守れるとも思えない。 「それじゃあせめて掃除や洗濯ぐらいはしなさい。手足が付いてるんだし何もできないんじゃないでしょ」 その程度であれば特に問題もない。こんな小学校を卒業したばかりのような小娘にこき使われるのは我慢ならなかったが この世界のことを全く知らない以上、しばらくは忍耐する必要があるだろう。 無言を肯定と見なしたのかそれに満足したルイズにディオが尋ねる。 「ところで…ぼくの寝床はどこだい?」 ディオの目の前で服を脱ぎながらルイズは黙って床を指さした。古い毛布が一塊おいてある。 「貴様!このディオを奴隷だと見なすのか!この小娘がァッーーーーーッ!!!!」 次の瞬間、ルイズはディオに殴られて床に倒れていた。 19世紀イギリス社会では奴隷は人間以下と見なされていた。貴族の女性が裸でいるところに奴隷が入っても 女性は眉一つ動かさない。最初から人間とは認めていないからだ。人間ではない相手に裸を見られても恥ずかしくない それがイギリス上流階級の考えであり、ルイズの考えも同じであった。 つまりディオはルイズから 「おまえはこのルイズにとっての モンキーなんだよディオォォォォーーーーーーッ!!」 と言われたに等しいである。 「な、なによ…」 いきなりのプッツンに動揺するルイズの腕を掴んで引き寄せると腹の底から絞り出すような声でディオは恫喝した。 「いいか、これから君の使い魔になったからといってぼくにイバったりするなよな。お前がぼくを奴隷扱いする限り ぼくはお前の事は主人だとは認めないッ!」 そう言うとディオはルイズを突き放し、部屋の外へと出て行った。後には唖然とする半裸のルイズと床に散らばるルイズの服だけが残された。 そしてルイズは明日からディオを徹底的にしつけてやろうと決心するのであった。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1616.html
間一髪で殺し合いが回避された後。 セッコは激昂するルイズの文句に半ば無理矢理つきあわされていた。 しかし今回ばかりはセッコも後に引かない。なんと言っても先に行動してきたのもワルドなら、原因も全部ワルドなのだ。 いくら主だと言っても限度がある。 「ずっと思ってたけどね。セッコあなた気が短すぎるわよ」 そんなもの治しようがねえだろうがよお。 「いや、だから、あれは帽子のおっさんが悪いんだって!」 「そこじゃないわよ!立ち合いは武器や杖を落としたら負けなの!」 聞いてねえ、言われなかったし。 「んな事で負けてたまるか!あれは油断したくそ帽子が悪りーってよお!」 「ああもう、わからないわね!後、ちゃんとワルドのこと名前で呼びなさい!」 どう判れっつうんだ。 「あんな事あるごとにオレの邪魔をするやつなんて知るかよお。」 「立ち合いはともかく邪魔はしてないでしょう!それにご主人様の婚約者よ!」 「まだ結婚してねーだろうが!!」 「うるさいわね結婚するわよ!」 「勝手にしやがれ、今度こそ、オレは絶対に、悪くねえ!!」 「勝手にするわよ!」 そう言い捨てるとルイズは走って何処かへ行ってしまった。けっ。 疲れたのでその場に寝転がったら少し落ち着いた。 当事者のワルドはとっくにいなくなっている。 一人だけ逃げやがってふざけんじゃねえ。 いくら強かろうとルイズの婚約者だろうと金もってようとワルドはもう嫌いだ。 昨日晩もそうだ。空飛んでてすぐ横の崖にいきなり火が灯ったら気づけよお。 機密任務中なんだし先制攻撃していいぐらいだ畜生。 しかも、灯りを投げられて更に矢を2回撃たれるまで何もしないとか馬鹿か。 何のために飛んでんだ。そんなのんきな軍人がいてたまるか。 ルイズもルイズだ。こんだけ自分の部下、いや使い魔か、本当のことを言ってるのに何で納得しねえ。何が貴族だ、くそお。 あー、昔はよかった。 ・・・は無茶苦茶だが少なくとも最期までオレを信じてくれた。 ・・・はオレの素朴な疑問に答えてくれた。 誰だったけなあ。ここに来る前。えーと・・・イタリア、だったかなあ。 まあ、今となってはどうでもいいかあ。 「どうした相棒、何おかしな顔してんだ?」 抜きっぱなしで転がっていたデルフリンガーがカタカタ話しかけてくる。 「そんなに変だったかあ?」 「なんとなくだけどよ、怒ってるというより錯乱してるみたいな」 どういうことだあ? 「ううん・・・ああ、オレのことを少しだけ思い出したんだよお。」 「俺のこと、ねえ、昔々・・・そういえば俺もなんかあった気がすんだよ」 「ふうん、早く思い出せるといいなあ。」 「相棒もな」 「ところでよお、デルフリンガー。」 「なんでい、相棒」 「今度こそ、オレって悪くねえよな?」 「ん?・・・まあ、相棒がそう言うなら正しいんじゃねえの」 「ちょっと、ためらったみてえだが。」 「剣が考えたらおかしいか?」 「少しだけ。」 「そうか、でもなあ、俺はインテリジェ・・・」 デルフリンガーが理解できない話を始めたので鞘にしまう。 ルイズはともかく、これからワルドと敵地潜入なんて嫌だあ。 でも、きっと途中で抜けたら国の刺客に殺されるんだろうなあ。 死ぬのはもっと嫌だ。この任務が終わってから考えよう。 うう、一人で考えるのは難しい。 その夜、セッコは一人ベランダに寝転がって飴を舐めていた。 ギーシュたちは、一回の酒場で騒いでいる。 飯は食いたいが、ルイズの機嫌も悪いし、くそワルドも見たくない。 ぼーっとしていると、いきなりケーキの入った皿が目の前に落ちてきた。 「うっ、うおああ!」 飛び起きてそれをキャッチする。 外を見ると、サラダボウルを持ったタバサがそこにいた。 「飯が終わるにはまだ早くねえかあ?」 「決闘をシルフィードが上から見ていた。心配だと。」 「シルフィードはどこだよお」 「外の崖の上」 「はあ?」 「目立つ」 まあ、それもそうか。 「これは食っていいのか?」 「・・・」 大丈夫そうだ。 「・・・うめえ。」 だいぶ、機嫌が直った。 「これも」 サラダボウルが突きつけられた。 「ケーキはもうねえの?」 「バランスが悪い」 「そうか。」 渡されたサラダに口をつける。 「・・・なんだか変だ。」 だが、不快な味ではねえ。薬に比べたら全然食える。 んん、薬?そんなもの食ってたっけ? 「前、食べていた」 「そうかなあ。」 うーん、なんだっけなあ。 変なサラダをもぐもぐと飲み下す。深い苦みをじわじわと感じた。 ふと、昔何度も聞いた医者の言葉を思い出す。 “味をきちんと感じられるのは、回復の兆し” そういえば、最初の頃食べた食事は味がわからなかった。 オレは回復してるのか・・・何から? 考えてもわからない。 「ところで、何か用でもあんの?」 「話が中断している」 んんん、ああそうか。そういえば途中でルイズに連れ戻されたんだっけ。 「わかった。だがオレの頼みはもう十分聞いたよなあ。」 「質問が残っている」 「何。」 「あなたは何者」 「名前とか、潜るとか、左手の印とか、ルイズの使い魔とか?オレ前言ったよなあ?」 「違う、もっと前」 「多分隠すようなことはねえんだけど、覚えてることが少ないから難しい。」 「判る事だけ全部」 さて、どう説明したもんかなあ。 記憶が飛び飛びで整理しにくい。 「確信がもてないのも言った方がいいかあ?」 タバサが頷いた。 覚えていることを順番に話していく。 月がひとつ。イタリア。前も使い魔みたいな立場だったかもしれない。車・・・ 一通り答え終わる頃には、タバサは妙に深刻な表情になっていた。 そして呟く。 「難しい」 「まあ、飛び飛びでわかりにくいかもなあ」 仕方ねえだろうがよお。これでも努力してんだ。 「違う、ハルケギニアにはあなたが言うような場所も物もない」 「いや、ここが変なのはわかるけどよ、別の大陸に行けばあんじゃねえの?」 一体どういうことだあ? 「ハルケギニアはこの世界自体。国や島や大陸の名前ではない」 「・・・うあ?」 「だから、難しい」 なんだかとてつもなく悪い予感がする。 「なあ、タバサよおー。[地球]って判るかあ?」 「初めて聞く」 そんな馬鹿な。いくらなんでも空を飛べるような奴が地球を知らないわけがねえ。 「オレはもしかして。」 なあああああああ・・・? 「多分、それで合ってる」 まあ、今のところ別に帰りたいってことはねえしいいかなあ。 「そうか。でよお、これって校長先生とかルイズに話した方がいいと思うか?」 「とても、難しい。それと、オスマンは知っている可能性の方が高いと思う」 「うう。」 「後で考えればいい」 確かに、今考えることじゃねえよな。つーか、考えてどうにかなるもんかなあ。 突然、ベランダが暗くなった。 「素朴な疑問なんだがよお、外のあれって何だと思う?」 「フーケと、誰かもう一人。多分、メイジ」 「やっぱりそうか。こういう場合、どうするんだっけなあ。」 「皆と合流」 「床をぶち抜くのと階段ってどっちが確実かなあ。」 「下の様子が不明。よって階段」 「わかった。」 言うが早いか、セッコとタバサは部屋の奥に飛び込み、廊下から階段を駆け下りた。 それに一呼吸遅れて、フーケが叫ぶ。 「久し振りねえ。お礼を言いにきたわよ!・・・ってあら?」 「奴等なら、もう奥に引っ込んだぞ」 「このわたしを無視なんて、いい度胸ね!」 フーケは腹立ち紛れにゴーレムの腕を振り回しベランダを削り取った。 「で、どうするのよ?」 「とりあえず、傭兵諸君に頑張ってもらおうじゃないか」 「そうねえ」 下りた先の一回も、修羅場だった。いきなり玄関から現れた傭兵団が、酒場にいたワルドたちを襲ったらしい。 キュルケ、ギーシュ、ワルドにルイズが岩のテーブルを盾にして応戦しているが、数が多い上に傭兵達の錬度はなかなか高く、 闇を背にして矢を撃ってくるのもあり分が悪い。他の客たちは既に逃げ出しているようだ。 タバサとセッコは各々矢を吹き飛ばし、叩き落しながら、ルイズたちのいるテーブルの影に滑り込んだ。 「参ったね、やはり昨日の賊が言っていたメイジはアルビオン貴族派か」 ワルドの言葉に、キュルケが窓の外を指差し頷く。 「フーケもいるしねえ」 「何でフーケは攻撃してこねえんだ?オレ達を殺すだけならさ、 ゴーレムと錬金で店ごとグチャグチャに破壊すればいいよなあ。おかしくね?」 “なあ、くそ帽子”と言いかけたが、ルイズの言葉を思い出し何とか飲み込んだ。 キュルケが答えた。 「・・・やつらはこっちの精神力が切れて、魔法を使えなくなるのを待っているのよ。 そうなったらフーケともども突撃してくるわ。どうしてくれようかしら」 「ぼ、ぼくが防いでやる」 「少なくともオメーにゃ無理だろ。」 「やってみなくちゃわからない、ぼくはグラモン元帥の息子だぞ。 卑しき傭兵ごときに遅れを取ってなるものか」 ギーシュがそう言って立ち上がりかけたが、キュルケに足払いで止められた。 「そんなんだからトリステインの貴族は戦に弱いのよ」 何か考えていたらしいワルドが低い声で話しはじめた。 「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」 いきなり何を言い出すんだ? しかし、影で本を広げていたタバサが本を閉じてワルドを杖で指した 「桟橋へ」 その後セッコとルイズにもそれを繰り返す。 「時間は?」 ワルドがタバサに尋ねた。 「今すぐ」 「聞いてのとおりだ。裏口に回るぞ」 タバサを見ると、囮を自分から言い出しただけあって堂々としている。 あー、確かにアルビオンに突撃するよりここで戦う方がまだ安全だよなあ。 オレも囮に志願するべきだったあ。もう遅いか、畜生。 「わかった。」 ルイズはおろおろしている。 その様子を見たワルドが説明した。 「今からここで彼女たちが敵をひきつける。せいぜい派手に暴れて、目立ってもらう。 その隙に、僕らは裏口から出て桟橋に向かう。以上だ」 「で、でも・・・」 ルイズはキュルケたちを見た。 キュルケがちょっと不機嫌そうに言った。 「ま、しかたないかなって。深入りはしないって言っちゃったしね。 いいから早く行きなさいな。ああ、でも、か、勘違いしないでね、ヴァリエール?あんたのために囮になるわけじゃないからね」 「わ、わかってるわよ」 ルイズは、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。 セッコたちは低い姿勢で歩き出した。 飛んで来た矢をデルフリンガーで叩き落す。ワルド働け。 酒場から厨房に出て通用口にたどり着くと、酒場の方から派手な爆発音が聞こえてきた。 「・・・始まったみたいね」 ルイズが言った。 「そのドアの向こうからは音しねーぜ。」 ドアを開け、3人は夜のラ・ロシェールの町へと躍り出た。 「桟橋はこっちだ」 ワルドが先頭をゆき、ルイズが続く。セッコはしんがりを受け持った。 それにしても正面にあんだけいて、裏口に誰もいないっておかしくね? 出発してからというもの、理不尽なことばっかりだ。うぐぐ・・・ 月が照らす中、三人の影法師が、遠く、低く伸びた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/291.html
++第一話 僕は使い魔①++ 「あんた誰?」 突然目の前に現れた少女はそう言った。 「ぼくは……花京院……典明だ」 答えながら花京院典明は記憶を探った。 ここはどこだ? 彼女は誰だ? それに……ぼくは何で生きている? エジプトのカイロで、ぼくは死んだはずだ。『世界(ザ・ワールド)』というスタンドを操り、自在に時を止めることのできるDIOに殺されたはずだ。 承太郎は? ジョースターさんは? ポルナレフは? ……みんな生きているのか? ふらつく身体に鞭を打って叩き起こす。 周囲を見てみるが、視界の全体が黒っぽくなっている。 顔を抑えてみると、サングラスが掛かっていた。どうやら黒みがかっているのはそのせいらしい。 外して、見回してみる。 目の前にはきれいなピンクのブロンドの少女、周囲には日本人ではない少年少女たちが大勢並んでいる、広がる景色は草原。どこを見てもエジプトとは結びつかない。 「君、すまないがここがどこか教えてくれないか」 「あんた、どこの平民?」 つっけんどんな態度で、少女は逆に質問してきた。 その態度に少し反感を覚えるが、堪えた。 「平民ってどういうことだ?」 「あんた平民でしょ。貴族にそんな口聞いて言いと思ってるわけ?」 「貴族?」 聞いたことはあるが、めったに使わないその言葉に花京院は首を傾げる。 「そう。私は貴族、あんたは平民。こうやって口を聞くことさえありえない関係なのよ」 尊大そうな態度で腰に手を当て、少女は花京院を睨みつけた。身長差があるゆえ、自然と見上げる形になる。 威圧しているようだが、少女が子供っぽいせいか効果は薄い。 花京院がなんと言うべきか迷ったその時、 「ミス・ヴァリエール。そろそろ『コントラクト・サーヴァント』にかかりなさい。これ以上時間は掛けられない。次の授業が始まってしまう」 人垣の中から一人の中年男性が現れた。黒いローブを着て、大きな杖を片手に下げている。頭は眩しいほどに輝いていた。 「で、でも、ミスタ・コルベール。平民を使い魔にするなんて聞いたことありません」 「確かに古今東西人を使い魔にした事例はないが、春の使い魔召喚は神聖な儀式だ。呼び出した使い魔を変更することはできない」 「そんな……」 少女はまだ文句を言おうと口を開くが、そこから言葉は出ない。どんなことを言っても、コルベールを説得できないと思ったのだろう。 その様子を見ていたコルベールは少女の肩に手を置くと、花京院の方を向かせた。 「では、儀式を続けなさい」 「…………はい」 しぶしぶながら、といった様子で少女は花京院の目の前に立った。 「あ、あんた、感謝しなさいよね。平民が貴族にこんなことされるなんて、普通一生ないんだから」 きれいな声で少女は呪文を唱えた。 突然、すっと花京院の額に杖を置くと、少女は距離を詰めてきた。 困惑して花京院は一歩下がろうとするが、 「いいからじっとしてなさい」 怒ったように少女が言うので立ち止まる。 少女はものすごく緊張しているらしく、杖を握った手が白くなっていた。 一旦少女は視線を落とすと、再び上げた。その目には決意がみなぎっている。 そして、背伸びするような形で、少女は花京院と唇を重ねた。 「な……!」 あまりの不意打ちに、花京院は飛びのいてしまった。 何をするんだ? 一体、どういうことだ……? 花京院の動揺を無視して、少女はコルベールの方を向いた。 「終わりました」 「うむ。『コントラクト・サーヴァント』は成功のようだ」 満足そうに頷いて、コルベールは花京院を見た。 次の瞬間、身体に激痛が走った。 「ぐうぅ……!」 息が止まりそうなほど痛い。左手の甲が焼け付くようだ。 焼きゴテを直に当てられているかのようなその痛みで、気が遠くなってきた。 気力を振り絞り、花京院は耐えた。 しばらくすると痛みはやわらぎ、やがて完全に治まった。 おそるおそる左手に目をやると、そこには古代文字らしきものが刻まれていた。擦ってみるが、にじむことも薄れることもない。 「珍しいルーンだな」 いつの間にか側に立っていたコルベールが言った。 花京院は後ろに下がり、声を荒げた。 「なんなんだあなた達は!」 「さて、じゃあ皆教室に戻るぞ」 くるりと背を向けると、コルベールは宙に浮いた。 あまりに自然な動きだったので、一瞬その異常さに気付かなかった。すぐにそのことに気付いた花京院は口をあんぐりと開けて、その様子を見つめた。 と、飛んだ? 糸を仕掛けるしても天井が無いから無理だろうし、スタンドの姿もない。一体、どうやって……? 周りを囲んでいた他の生徒たちも一斉に浮き上がった。 ありえない。一人ならなんとか説明はつけられても、こんな全員が一度に浮くなんてありえるはずがない。 浮いた生徒たちは滑らかな動きで、遠くにある城のような石造りの建物の方へと飛んでいった。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」 口々にそう言って、笑いながら飛び去っていく。 草原に残ったのはルイズと呼ばれた少女と花京院だけになった。 二人っきりになると、ルイズはまずため息をついた。それから花京院の方を向き、目じりを吊り上げた。 「あんた、なんなのよ!」 「それは僕のセリフだ。君たちは一体なんなんだ? それに、さっき空を飛んでいた。あれは何だ? 手品なのか?」 「ったく、どこの田舎から来たかしらないけど、説明してあげる」 頭痛がするのか、ルイズはこめかみに指を当てながら説明した。 ここはトリステイン魔法学院であるということ。 貴族とは魔法を使えるもののことを指すこと。 この世界にはドラゴンやグリフォンやマンティコアなどがいること。 そして、自分はルイズに召喚され、使い魔になったということ。 どれも突拍子もない話で、簡単には信じることができなかった。 「冗談だろう?」 「あんた相当田舎から来たみたいね」 心底呆れ果てたように、ルイズは首を振る。 空を飛んだ人たちを見たとはいえ、それが全て本当のことだとは思えなかった。半分は信じても、疑いが半分残っている。 「信じるも信じないもあんたの勝手だけど、とりあえず戻るわよ」 二人は石造りの建物に向かって歩き出した……。 To be continued?→
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2560.html
たいへんだ! 大統領が隣の世界からたくさんルイズを連れてきちゃったぞ! ヒロインがいなくちゃ話は続けられない! 彼女たちの話を聞いて元の世界へ帰してあげよう! (問題)次のルイズはどこの作品のルイズか答えなさい。 ルイズA「私の悩み? そうね、こうしていると時々、ひどく寂しくなるの。前はもう少し賑やかだったもの。 でもデルフもワルドもマチルダもいるから孤独とは思わないけれどね」 ルイズB「ねえ聞いて! 才人ともっと一緒にいたいのに、ううん、もっと身体も心も一緒になりたいのに、 ギーシュもエレオノールお姉さまも邪魔するの! 愛してる、私が欲しいって才人も言ってるのに!」 ルイズC「べ、別に大した事じゃないんだけど、最近、なんだかあいつタバサと仲良くしてるみたいなの。 惚れ薬のせいだけじゃなくて、それにタバサの方も少し変わったような気がするわ。 タバサの他にキュルケとも会社を興したり、シエスタとも楽しげに話しているし……ああ、思い出したら腹が立ってきた! 忘れないでよね! わたしがご主人様なんだからね! ないがしろにしたら許さないわよ!」 ルイズD「ちいねえさまも(弾け過ぎな気はするけれど)元気になったから悩みなんてないわ。 ただキュルケの様子がおかしいのよ、ブツブツと体液だの触手だの呟いて変な目で見てくるし」 ルイズE「……色々あるわね。たとえば使い魔が私よりデルフと親しそうだったり、 元婚約者が変な性癖の持ち主でソムリエ呼ばわりされたり、ギーシュは……もういいわ、諦めたから」 正解はWEBで! (正解) ルイズA:『仮面のルイズ』(第一部より石仮面) ルイズB:『ギーシュの奇妙な決闘』(第七部SBRよりリンゴォその他) ルイズC:『ゼロと奇妙な鉄の使い魔』(第五部よりリゾット) ルイズD:『ゼロの来訪者』(バオー来訪者より橋沢育郎) ルイズE:『アヌビス神・妖刀流舞』(第三部よりアヌビス神)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1575.html
頭に血が上っていたルイズは、疲弊と共に冷静さを取り戻していた。 が、拷問が質問にまで軽減されているもののそれはいまだ続いている。 「じゃあ、本当に襲ったり口説いたりしてたわけじゃないのね?」 「ずっとそう言ってるだろうがよおー。」 セッコが疲れ切った返事をした。まあ多分本当なんだろう。 「わかったわかった、もうそれはいいわ、でもね。」 「うん」 「そんな重要な能力を何で隠してたのよ!」 「かかか隠してねえ、フーケと戦闘中に思い出したんだって!」 「それにしたって半日以上たってるわよね。」 「昨日のどのタイミングで言えってんだよ!踊ってる途中にでも囁けってか!」 「じゃあ何でタバサとオールド・オスマンには教えてんのよ!」 「それは事情がああ」 「やっぱ隠してんじゃないの。」 「違う、向こうから聞かれたんだって!」 「違わない!」 朝。 「なあ、デルフリンガーよお」 繋ぐ鎖を丸めては伸ばす遊びを繰り返しつつ、現在唯一の話し相手に顔を向ける。 「なんでい、相棒。」 「今回オレって悪くねえよな?」 「いーや、まあ9割は相棒のせいだろ。俺様の経験からするとな。」 結局セッコは一晩中小言に付き合わされた挙句、丸一日の謹慎と非常時以外の“能力”使用禁止を命令され、ベッドに首輪で留められて部屋に置いていかれたのだった。 「勘違いだってのに」 「それが良くねえ。」 「そうかあ」 ちょっと、大人気なかったかしらね・・・ よく考えたら、セッコはあんまり悪くないような気もしてきた。いまさら後には引けないけど。 目の前では、「大人気ない教師No.1」のミスタ・ギトーが風魔法最強論を延々とリピートしている。 伝説の「虚無」はともかく、土水火風全てまともに使えないルイズにしてみれば、 それらはどれも均等にウラヤマシイ存在であり、そこに優劣などない。 キュルケが伸されているのはちょっと爽快なのだが、 ギトーはキュルケに輪をかけて不愉快なのであまり喜べない。 と、いきなり教室の扉が開き、誰かが現れた。 「ねえ、ギーシュ。あれ、何だと思う?」 「ミスタ・コルベールだよ。僕の愛しいモンモランシー」 「よく見ると、そうね」 彼はあまりにも珍妙な格好をしていた。 頭に馬鹿でかいロールのついた金髪のかつらをのっけ、 全身フリルや刺繍だらけのローブを纏っている。 「…ミスタ?」 同僚であるギトーすら眉をひそめた。 「あややや、ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」 「授業中です」 コルベール?をにらんで、ギトーが短く言った。 「おほん。そのことなんですがね、今日の授業は全て中止であります!」 「は?」 驚くギトーとわきあがる歓声を全く無視し、コルベールは言葉を続けた。 「えー、皆さんにお知らせですぞ。」 しかし、もったいぶってのけぞった拍子に、馬鹿でかいかつらが取れて、床に落っこちてしまった。 首から上の大きさが一気に1/4ほどになり、その下から光り輝く禿頭が現れる。 それをボーっと見ていたタバサがぽつんと呟いた。 「滑りやすい」 教室が爆笑に包まれる。 コルベールは当然というべきか、顔を真っ赤にして怒鳴った。 「黙りなさい!ええい!黙りなさいこわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うとは全く貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ! これでは王室に教育の成果が疑われる!」 笑ったこと自体に対して怒っているわけではないあたり、自分の姿かたちは理解しているようだ。 教室が静かになったところでコルベールは再び喋り始めた。 「えーおほん、恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、 我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、 アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」 再び皆がざわめいた。 「したがって、粗相があってはいけません。 急なことですが、今から全力を上げて、歓迎式典の準備を行います。 そのため本日の授業は中止。生徒諸君は門に整列すること」 丸一日外出禁止とか暇過ぎるぜ。 つか飯も食えてねえ。 「鎖で遊ぶのも飽きたあ、面白い話でもしろデルフリンガー。」 「剣に面白さを求めるんじゃねえ」 「使えねーなあ。それにしても鎖につながれるってのは嫌な気分だぜ」 「相棒のパワーならそんなもん一瞬で引きちぎれるんじゃねえの?」 「なんとなくやったらダメな気がするんだよお。」 「使い魔って因果なもんだな」 サビ剣との無駄話で時間を潰すのもそろそろ限界だ。 あれ?ルイズの呼び声がする。 その直後、慌てて部屋に入ってきた。何があったんだあ? 「もう授業終わったのか、随分早くねえ?」 「そんなこと今はどうでもいいのよ、セッコ」 「うあ?」 「反省している?」 「してる。」 「本当に?」 「うん、うん。」 「怪しいわね、まあいいわ。ちょっと鎖外してついてきなさい。」 前から思ってたが随分適当な奴だなあ。外に出れるならいいけどよ。 「なんかあんの?」 「いいからついてきなさい。後、大声出したらダメよ。」 「わかった。」 「なんだこりゃ」 正門前に全員が綺麗に並んでいやがる。校長先生もといヒゲまでいる。 「いいから大人しくしてなさい、もうじき王女様が来られるのよ。」 「王女ってなんかのついでに学校に寄るような奴なのかあ?」 「うるさいわね、黙って見てなさい」 もしかしてここはすげー名門なのか? そういやあどいつもこいつも貴族とか何とか言ってたなあ。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーリーッ!」 謎の動物に乗った騎兵を四方に従えた2台の馬車のうちの一つから、 杖を持ち冠を被った少女が現れた。 王女がにっこりと微笑み、手を振る。 「あれがトリステインの王女?ふん、あたしの方が美人じゃないの。」 いつの間にか隣にいたキュルケが、つまらなそうに呟いた。 ちょっと2人を見比べてみる。 それは微妙じゃねえか? あれが王女ねえ。 「なールイズ」 反応がねえ。 「なー」 反応がねえ。 「キュルケー」 反応がねえ。こいつら何を見てるんだ?まさか王女じゃねえよなあ。 キュルケとルイズの視線の先を確かめる。 そこには、ライオンの胴体に鳥の頭がついた珍獣に乗って、でっかい羽帽子を被った貴族がいた。 貴族基準のかっこよさは理解できねえ。 しかしルイズも一目惚れなんてすんのか、ちょっと意外だ。 つーか俺の疑問に誰か答えてくれえ。誰か。 ちらりと斜め前にいるギーシュを見る。 王女を見ながら涙を流してやがる。これもだめだあ。 ん? よく見ると、タバサがキュルケの足元に座って本を読んでいた。 「なー」 反応がねえ。本に夢中だ。 「タバサよお」 「何」 やっと気づいた。 「ちょっと素朴な疑問があるんだが答えてくれねーか。」 「いいけど」 「王女様ってさあ、杖持ってたけど自ら戦ったりすんの?」 タバサの表情が微妙に歪んだ。 「知らない」 おあ、オレなんか悪いこと聞いたかあ? その夜。 「ルイズー」 「…」 あれから何を話しかけても反応がないルイズに絶望したセッコは、 諦めて部屋の隅に寝転がっていた。 「なあ、これもオレが悪いのか?」 返事がねえ、剣すらオレを無視・・・うう・・・ あ、鞘にしまえって言われて片付けたの、オレじゃねえか。 今日はもうダメだ、諦めて寝ちまおう。あれ、微妙な足音がする。 コツ・・・コツ・・・コ・・・ まだ、そおっと歩くような時間じゃねえよな? 足音は、なんとルイズの部屋の前で止まった。 「なールイズ」 「…」 「お客さんみたいだぜ」 「…」 くそ、もう耐えれねえ、後で怒られようがこの沈黙から逃げ出してやる。 デルフリンガーを掴んで窓から身を乗り出したところで、ノックの音が聞こえてきた。 コン、コン、 コココン ルイズがいきなり正気に戻り、そして。 「セッコ、窓閉めて隅っこでじっとしてなさい。」 「うー」 畜生、さっきまで何しても反応なかったくせによお。 そういいつつルイズがドアを開けると、黒ずくめの女が部屋に滑り込んできた。 「…あなたは?」 女がそれには答えず、何かを唱えると光の粉が部屋に舞った。 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 なんだこいつ?敵、じゃあねえよな。 女が頭巾を取った。 ああ?この顔は確か・・・ 「姫殿下!」 言うが早いか、ルイズが膝をつく。 「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」 王女様がこっそり来るなんて、絶対にいい知らせのわけがねえ。 朝から晩まで最悪続きだ。もうなるようになりやがれ。 セッコは、頭を抱えてうずくまった。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2294.html
「うん。こりゃ無理じゃな」 昼下がりの厨房の片隅でシチューを飲み干して、ジョセフは二秒で言い切った。 ウェールズに言った通り、奇跡が二つか三つは用意できない限りトリステインはアルビオンの脅威を払拭できない。 孟子曰く、天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず。 つまり天のもたらす幸運は地勢の有利さには敵わず、地勢の有利さは人心の団結に敵わないという事である。 今のトリステインには天の幸運も地勢の有利さも人心の団結もない。天地人三つで惨敗している以上、結構な数の都合のいい奇跡を用意しなければならないが、いくらジョセフでもそんな都合よく奇跡を用意できるわけではない。 それでも一応、大言壮語を吐いてしまった以上は何かしら奇跡が用意できないか、と情報を集めてみることにした。 アルビオンの地理的条件やレコン・キスタ戦の顛末をウェールズに聞き、オスマンにトリステインや近隣諸国の情報を聞いてみた結果の答えが、冒頭の言葉に繋がる。 「そもそも敵の国が空の上に浮かんでるって時点で反則じゃよなあ。制空権取られて勝てる戦争なんてあるワケないじゃろーよ」 空に浮かぶアルビオンはハルケギニア一の隻数を誇る飛行艦隊に加え、ハルケギニア最強とうたわれる竜騎士団を擁し、空軍戦力で言えば他の国の追随を許さない。しかもこっちからはただ渡航するだけでも日時を選ばなければならない。 「攻守共にパーペキ、じゃな。戦艦と戦闘機は性能も数も申し分なし。これで不意打ちなんか食らった日にゃ手も足も出ずにお手上げじゃ」 第二次世界大戦もベトナム戦争も、左手が義手のおかげで高見の見物を決め込んだジョセフである。太平洋戦争で日本を叩きのめした圧倒的な戦力差が、今になって自分の身に押しかかってくるとなると、流石のジョセフと言えども暗澹たる思いは否めない。 正直な所、異邦人丸出しのジョセフとしては黙って逃げても構わないとは思っている。しかしトリステインを襲うレコン・キスタに紳士的態度を期待できるほど盲目でもない。 「ふうむ。かくなる上は多少無茶な手を取るしかないかもな……じゃがそれってわしのキャラじゃないよーな気がするわい」 空になったシチューの皿をスプーンでこつこつやっていると、後ろから声を掛けられる。 「ジョセフさん、お替りいかがですか?」 「ああ、じゃあもう一杯」 シエスタに皿を差し出すと、花の咲くような笑顔が返って来た。 「はい、少々お待ち下さいね」 ぱたぱたと鍋に向かって走るシエスタの後姿を眺め、ヤレヤレと頭をかいた。 「……キャラじゃなくてもやらなきゃならんかもなァ」 独り言はジョセフだけにしか聞こえることはなく、それから少しばかり時間を置いて戻ってきたシエスタの手には、並々とシチューの注がれた皿と、ポットと二つのカップの乗ったお盆があった。 「お待たせしましたジョセフさん。とても珍しい品が手に入ったので……その、お御馳走しようと」 「珍しい品?」 シチューを見るが、さっき食べたシチューと変わりがないように思える。 「いえ、そっちではなくて。ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しいお茶なんです」 「茶?」 テーブルの上にお盆を置くと、ポットから二つのカップに緑色のお茶が注がれる。 日本でホリィが煎れた緑茶によく似た香りに、ジョセフの目が細まった。 「はい、どうぞ」 「うむ、ではいただくとするかな」 一口飲むと、少し渋い味が口の中に広がる。 「……ふむ。まさかこっちで緑茶を飲めるとは思わんかったな」 ふう、と吐息と一緒に漏れた言葉に、シエスタがきょとんと目を大きくした。 「ジョセフさん、このお茶を飲んだことがあるんですか?」 「ああ、わしの娘が嫁いだ国の茶じゃ。娘がよく煎れてくれた」 「ジョセフさんの娘さんは、東方におられるんですか……」 驚くシエスタを眺めつつ、ジョセフはカップに注がれた茶をぐっと飲み干した。 「うむ、美味い。ほら、シエスタも冷めんうちに飲んじまわんとな」 「え、あ、そうですね。それじゃ、頂きます」 シエスタも一口緑茶を飲んで、ちょっとだけ眉を顰めた。 「うーん……ちょっと、苦いような気がします。香りはいいんですけれど……」 「これはあれじゃよ、何か甘ぁ~い菓子と一緒に食べるとバランスがよくなるんじゃ。クッキーみたいな焼き菓子なんかいいんじゃないか」 「あ、今ジョセフさんいいこと言いました! 三時のおやつにはちょっと早いですけど、固焼きのクッキーがあったはずですから持ってきますね」 そう言ってまたぱたぱたと立ち上がったシエスタが持ってきた皿一杯のクッキーがテーブルに置かれ、しばらく二人で緑茶とクッキーの相性の良さに舌鼓を打つ。 「美味しい! クッキーの甘さがお茶の渋みを和らげて、お茶の渋みがクッキーの甘さを引き立ててるような!」 「ふむ、もうちょっと砂糖を多めに焼いてもいいかもしれんな」 二人の口の中にクッキーが早いペースで飛び込み、シチューの皿も再び空になったところでジョセフは満ち足りたお腹を撫でた。 「ふー、食った食った。いやいやシエスタ、ご馳走さん」 ジョセフの満面の笑顔に、シエスタはぼっと顔を赤くした。 「いえ、そんな……」 「今日は珍しいモンもご馳走になったから、なんかお礼をせにゃならんのォ。シエスタ、何か欲しい物があるならわしに用意できる範囲で用意するぞ」 ジョセフが若くて可愛らしい娘にいい顔するのは今に始まったことではない。シエスタはルイズやキュルケ、アンリエッタの洗練された薔薇のような美しさとはまた趣の異なる、野に咲く花の様な素朴な魅力がある。 黒髪黒目でちょっと鼻が低い面立ちは、日本の少女を思い起こさせる。 「えっと、じゃあ……ジョセフさんが住んでた国の事を聞かせてほしいです」 「わしの国か? そんくらいなら暇な時にいくらでも聞かせてもいいんじゃぞ」 「うふふ、お茶のお礼にジョセフさんのお話を独り占めさせて下さい」 にっこりと無邪気な笑みを見せられては、悪い気がするはずもない。 「よしよし、んじゃたっぷり話すとするか。そうじゃなあ、わしの国でバーベキューに誘われたら要注意という話を……」 その他に激辛の菓子を取引先の店主に渡した時の話や東方の牛肉がスゲエ話をし、厨房の片隅でメイドを思う存分爆笑させて満足した。 笑い過ぎてまなじりに浮かんだ涙を拭うと、シエスタはぺこりと頭を下げた。 「ありがとうございました、とても楽しかったです。ジョセフさんのお話、また聞かせてもらえますか?」 「そりゃあもう。わしの笑い話のストックは108くらいじゃすまんぞ?」 「もし宜しければ、今度は私がお料理作りますから、あの、その……」 もじもじと両手の指を絡ませて顔を赤らめながら、上目遣いでジョセフを見た。 「私と二人で食べてもらえたら、なんて……」 「わしでいいなら喜んで」 今日も今日とてシエスタの好感度を順調に積み上げて、ジョセフは厨房を後にした。 * 「うーんうーん……火……火……」 早々とネグリジェに着替え終わったルイズは、今夜もベッドの上で悩んでいた。 しかし今夜の悩みは使い魔のことではなく、アンリエッタの結婚式で詠み上げる詔を考える為の悩みだった。 トリステイン王室の伝統として、王族の結婚式では貴族から選ばれた巫女がトリステインの国宝である『始祖の祈祷書』を手に式の詔を詠み上げる慣わしとなっている。 アンリエッタは式の巫女にルイズを指名し、オスマンを通じて始祖の祈祷書をルイズに授けた。だが指名された巫女は、詠み上げる詔を考えなければならないと聞いたルイズは、内心役目を辞退したい気持ちで一杯になった。 ルイズは頭の出来は良好ではあったが、如何せん芸術的センスや文才に関しては残念なことに不自由と言わざるを得なかった。 四大系統の火、水、風、土に対する感謝の辞を詩的な言葉で韻を踏まなければならないという高いハードルの前に、ルイズは早速膝を屈しかけていた。 ノートには線を上書きされた文章のなり損ないが何ページも連なっており、ルイズの悪戦苦闘っぷりを雄弁に物語る。 「……うう、そんな事言われても……」 詩を読んであそこがダメだここがダメだとしたり顔で評論するのは簡単だが、こうやって作る立場になってみて初めて、詩人と言うのは偉大だと痛感していた。 しかし敬愛するアンリエッタが直々に自分を指名してくれた光栄を考えると逃げ出す訳にも行かず、頭から煙を出しかねない様子でウンウン唸る以外ないのだった。 「それにしても……国宝なのよね、コレ」 ルイズはもう一度『祈祷書』を最初から最後までめくってみる。古ぼけた革の装丁の表紙からして今にも破れそうで、羊皮紙のページも色あせて茶色く変色している。一枚めくる度に破いてしまわないように細心の注意を払わなければならない。 しかしそれにしても、三百ページあるその本は最初から最後まで全部白紙。六千年前に始祖ブリミルが神に祈りを捧げた時に唱えた呪文を記したものが『始祖の祈祷書』だという伝承が残っているが、それにしたって全部白紙と言うのはいかがなものか。 始祖ブリミルの伝説所縁の品物は、『伝説』の常として各地に何冊も存在している。伝説が本当だとすれば本物は一冊だけのはずだが、所持者は全員自分の祈祷書こそが本物だと声高らかに主張している。 アルビオン王室にも当然『始祖の祈祷書』が存在していた。ウェールズに中身はどんなものか聞いた所、ルーン文字でびっしりと埋め尽くされていたらしい。 それを考えたら、全部白紙だと言うのに祈祷書でございと言い切るトリステイン王室は大した度胸だと感心してしまった。 「……まあそれはさておいて。早いトコ考えなきゃならないのが巫女の辛いところだわ……」 再びノートに向けてペンを構えたその時。 「帰ったぞー」 風呂上りの能天気な使い魔の声に、慌てて祈祷書でノートを隠した。 「ん? なんじゃそれ」 「な、なんでもないわよ」 こそこそと祈祷書の下に隠したノートを枕の下に移そうとするのは意に介さず、ジョセフはルイズの頭を指差した。 「いや、なんでわしの帽子かぶっとるんじゃ」 帽子がトレードマークのジョセフでも、風呂に行く時は帽子を脱いで行く。部屋に置いたままの帽子がいつの間にかルイズの頭の上にあった。 しかし身長195cmのジョセフと153サントのルイズでは頭のサイズも二回りほど違う為、ジョセフなら眉毛の上辺りまでしか収まらない帽子が、ルイズがかぶると両目を覆い隠すくらいになっていた。 「……そこにあったから、なんとなく」 それだけ言って、両手で帽子のつばをつかんでぎゅっと下に引き下げた。 「じゃが部屋の中でかぶっても意味ないじゃろ?」 「……いいの」 そう言うと、帽子を取ろうともせずベッドに寝転んだ。 ジョセフもそのままベッドに歩み寄ると、遠慮なくベッドに寝転ぶ。 「……何勝手にご主人様のベッドに寝てるのよ」 「昨日ベッドで寝ていいって言われたからな」 やっとここで帽子を脱ぐと、大の字になるジョセフの顔へ帽子を乗せた。 乗せられた帽子を枕元に置くジョセフの腕に頭を乗せて、ルイズは赤く染まる顔で憎まれ口を叩く。 「……いいわ、忠誠には報いるところがなければならないもの」 そう言いながらランプに杖を振り、明かりを消した。 それからちょっとの間、ルイズはまだ落ち着かなさげに寝返りを打ったりするが、やがて呼吸が静かになっていき、すとん、と意識を手放した。 規則正しい寝息を立て始めたルイズの寝顔を見ながら、ジョセフは小さく溜息をついた。 「――キャラじゃなくてもやらなくちゃならんか、な」 口の端に薄い苦笑を浮かべ、桃色がかったブロンドの髪を優しく撫でてから、ジョセフも主人の後を追う様に眠った。 * ルイズ達がアルビオンから帰還して十日ほど過ぎた昼下がり。昼食を終えたジョセフは部屋に戻り、ベッドの上で昼寝を楽しんでいた。 ルイズの部屋にはさして物はなく、年頃の少女が住む部屋にしては少々殺風景だった。 この部屋の中で目を引く家具と言えば、天蓋付きの豪奢なベッド、一人分の衣装を収めるにはやや巨大なクローゼット、分厚い本で埋め尽くされた本棚。 他にあるものと言えば、クローゼットの横に引き出しの付いた小机があり、部屋の中央に丸い小さな木のテーブルと二脚の椅子、そして部屋の片隅に無造作に置かれたボロ毛布。 寮の一室にしてはかなり広い空間にそれくらいしか家具がないルイズの部屋は、まあ言ってみれば合理的で機能的と言うことも出来た。 掃除もハーミットパープルがあるし、洗濯も波紋式全自動洗濯ですぐに終わる。しかし主人が授業に行っている間の暇潰しに不自由することはない。 学院の探索は大体終わっているが、厨房に行けばマルトーやシエスタなどの使用人達と無駄話が出来るし、中庭に行けば日向ぼっこしている使い魔達と交流を深められる。ウェールズの部屋に行けば、かつてのアルビオンの情勢を事細かに聞くことが出来る。 しかし暇潰しの手段に事欠かないとは言え、腹も満足した上に初夏間近の陽気にやられて睡魔に襲われるのは致し方ない。 暢気にいびきをかいているジョセフを起こしたのは、扉をノックする音だった。 「……んぁ?」 気持ちよいまどろみから抜け出さないまま、寝ぼけ声で返事する。 「主人なら授業中じゃよ……」 そのまま再び眠りに戻ろうとしたジョセフに、少女の声が届いた。 「あ、あのジョセフさん! 私ですシエスタです!」 「ん? えー、あー……開いとるぞ」 寝ぼけたままのジョセフの声を聞いて、料理が大量に並んだ銀のお盆を持ったシエスタが部屋に入ってくる。 「んむ……どうしたんじゃ、何か用かな」 身を起こしながら目を擦りつつ帽子を被るジョセフに、シエスタはそばかすの浮いた頬を僅かに赤らめながら言葉を掛けた。 「あ、あの……実はですね、最近、マルトーさんにお料理の手ほどきをしてもらってるんですけど、その……もし良かったら、ジョセフさんに食べてもらいたいなって……」 所々言葉をつっかえたり視線をそこかしこに彷徨わせたりしながらも、お盆を持つシエスタの手は揺らがなかった。 「ふーむ。なかなか旨そうじゃがちょっとわし一人で食うには量が多すぎるかなァ」 最近は三食不自由しないジョセフである。厨房に行くのもちょっと小腹が空いた時に行くくらいで、本格的に食事を分けてもらう事も最近では少なくなっていた。 「あ……そうですね、ミス・ヴァリエールやお友達の皆さんと塔でお食事なされてますし……やだ、言われてみたらちょっと作りすぎちゃったかも……」 ウェールズが隠れ住む塔まで五人分の食事を運ぶのは使用人達の仕事の一つであり、シエスタもちょくちょく塔の入り口まで食事を運ぶこともある。しかし黒い琥珀に選ばれていないシエスタは入り口より上に入ることはないのだった。 張り切って作った料理に視線を落とし、肩も落としたシエスタにジョセフはニカリと笑って言葉を続けた。 「こーゆー時は逆に考える。わし一人で食うには量が多いなら、シエスタも一緒に食べりゃいいんじゃよ。な?」 落ち込んでいた顔へ、花開くように笑みが広がった。 「あ、それはいい考えです! それじゃ今からフォークとナイフ取ってきますね!」 「シエスタ、行く前に料理はテーブルに並べて行った方がええと思うぞ」 それから数分後、ジョセフとシエスタはフォークとナイフを手にし、小さなテーブルの上に所狭しと並べられた料理を向かい合わせになる形で挟んでいた。もうそろそろおやつの時間ではあるが、おやつというには本格的なボリュームのある食事である。 ジョセフがまず最初に目を向けたのは血の滴るようなTボーンステーキ。それもサーロインの方からナイフを入れていく。 大きく切り取った肉をこれまた大きく開いた口に入れ、数度噛み締めてから飲み込んだ。 「うむ、旨い! 焼き具合も肉の下ごしらえもバッチリじゃ!」 「わぁ、よかった! ジョセフさんの好物がTボーンステーキだって聞いてましたから、ちょっと頑張ってみたんです!」 「いやいや、これはマルトーの親父が焼いたって言われても疑ったり出来んぞ? どれ、他のも頂くとするか。シエスタもわしに遠慮せず食べてくれ」 そう言っている間にも、ジョセフは他の料理に取り掛かり、かなりのスピードで皿の上を片付けていく。 「うふふ……私が作った料理をそんなに美味しそうに食べてくれるのを見るだけで、満足しちゃいそうです。でも普段だとこんな立派な食事なんて食べれないですから、お言葉に甘えて食べちゃいます」 フライドチキンはフォークやナイフなんか使わずに直接手で持ってかぶりつく。油の付いた指まで舐めるジョセフの様子を、シエスタはスパゲティを取り分けながら嬉しそうに見つめていた。 「はいジョセフさん、このパスタは自信作なんですよ」 「お、こいつも旨そうじゃな。……ふむ、旨い!」 二人で食べようと言いながらも、結局テーブルの上の料理は八割ほどがジョセフが平らげてしまい、最後にデザートのクックベリーパイを残すのみとなった。 「ふー、いやホント旨かった。満足満足」 ワインを飲みながら、パイを切り分けるシエスタへ笑みを向けた。シエスタもジョセフの笑みにはにかみながら、パイをジョセフと自分の皿の上に乗せた。 「あんなに美味しそうに食べて貰えるなら作って良かったなあって思いました。で、その……もし、よかったら、でいいんですけど……」 「ん? またなんか愉快な話を聞きたいんならいくらでも話すぞ」 「あ、いえ……お話もいいんですけど、その……」 膝の上でもじもじと指を絡ませながら、落ち着かなさげに視線を彷徨わせるシエスタ。切り分けられた最初のピースをジョセフが飲み込んだ辺りで、シエスタは意を決して自分の分のパイが乗った皿をジョセフに指し示した。 「も……もし、よかったら……その、あーんってしてもらえたらなーって……。あ! お、お嫌だったらいいんです! ごめんなさい、変な事頼んじゃって私ったら……」 「おお、構わんぞ」 たっぷりと逡巡を繰り返したシエスタの葛藤が馬鹿らしくなるほど、あっさりとジョセフはシエスタの頼みを快諾した。 「そんなんでいいんならお安い御用じゃ。どれ」 あまりにスムーズに進んでいく話に一瞬呆気に取られてしまったシエスタの前から、ジョセフの手が皿を引き寄せる。 そしてフォークで小さく切り分けたパイを刺し、ニカリと笑ってシエスタへ差し出した。 「ほら、あーん」 ジョセフにとっては何気ないお遊び……というか、軽いおふざけレベルの所作だが、シエスタにとっては一世一代の決心とも言える出来事だった。 決闘騒ぎから後のジョセフは、学院で働く平民達にとっては貴族達に一泡吹かせて見せた英雄であり、特に貴族の暴虐から救われた張本人であるシエスタが特別な感情を抱くのは当然とも言える。 そんな相手が、にっこり笑って、あーん。 「え、えええええええあ、あの、心の準備が……!」 予想を上回った展開に慌てはするものの、シエスタとしても願ったり叶ったりのシチュエーションであることは間違いない。 真っ赤になった頬を両手で包み、すー、はー、と深呼吸をしてから、意を決する。 「……優しく、優しくお願いしますね、ジョセフさん」 まるで唇でも捧げるような面持ちで固く目をつぶると、あーん、と大きく口を開けた。 「そんなに身構えんでも大丈夫じゃぞ?」 ちょっと苦笑を浮かべながらも、フォークをシエスタの口へと運ぶ。 「はい口閉じてー」 「ん、む」 口を閉じて、フォークが抜かれて、口の中に残ったパイを、噛んで、噛んで、噛んで、よく噛んで、ゆっくり噛んで、飲み込む。 「…………」 「お味はいかがかな?」 「…………え、ええと」 顔を真っ赤にしたまま、上目遣いでジョセフを見た。 「……もう、一回、お願いします……」 「よしよし」 再びパイが刺さったフォークを、シエスタが口にくわえた瞬間――授業を終えて帰ってきた部屋の主がドアを開けた。 「おうルイズ、お帰り」 暢気に声を出せたのはジョセフだけだった。 ルイズは部屋に戻ってくるなり見えてしまった光景に、無意識に目を見開いていた。 シエスタは、扉の開いた音にふと向けた視線が捕らえたルイズの姿に、少女の直感が閃いていた。これは、まずい、と。 何をどうしなければならないか考えるよりも早く、シエスタは首を静かに後ろに動かして口にくわえられたままのフォークを抜き、必要最低限の咀嚼でパイを飲み込んだ。 パイが喉を通過するのを感じながら、シエスタは自分にクイズを出した。 (問題です! 今にも大爆発しそうなミス・ヴァリエールに御納得していただく方法は? 3択――ひとつだけ選びなさい。 答え1 キュートなシエスタは突如見事な弁明のアイデアがひらめく。 答え2 ジョセフさんが言いくるめてくれる。 答え3 ごまかせない。現実は非常である。 ……私が○をつけたいのは答え2ですが期待はできません……。 ここに来てのほほんとしているジョセフさんがあと数秒の間に都合よく今の危機的状況を把握して『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』の騎士様のように不貞の現場を目撃されたのに間一髪見事な弁舌で言いくるめてくれるってわけにはいきません……。 逆にジョセフさんが何を言っても火に油を注ぐ結果になるかもしれません) おなかにパイが落ちるまでの僅かな時間でそこまで判断を下したシエスタは、今にも滝のように流れ落ちそうな汗を必死のパッチで押し留めつつ、たおやかな微笑みを浮かべて口を開いた。 「――ジョセフさん、今日は本当に有難うございました。ちょっと余っちゃったからっていきなりこんなに料理を持ってきましたのに、全部食べて下さって……」 「ああいやいや、わざわざわしのために作ってくれたんじゃからな。ありがたく食べないとバチが当たるわい」 空気を読んでくれないジョセフの返事に、シエスタの全身からだくだくと汗が流れた。 せっかく『自分がジョセフのために頑張った手作り料理』という点をはぐらかし、『作り過ぎて余ったから食べてくれそうな人に持ってきましたよ』という流れに持っていったのに、当のジョセフがこれ以上ないくらいにぶっちゃけてしまった。 しかも、それだけでは飽き足らず。 『シエスタの口に入ったフォークで』『自分の分のパイを切り分けて』『食べた』。 俗に言う間接キス。 ラブコメの必勝形である。 これがほんの一分前に起こっていたら、シエスタの胸は甘いときめきで満ち溢れていたのは間違いない。 だがこの状況に置いてジョセフのこの行動は、破滅への道を突き進むスイッチでしかなかった。 あと数秒で大爆発するであろうルイズには目もくれず、普段から培われたメイドの技術を完全解放してテーブルの上の皿を目にも留まらぬ早業で盆の上に乗せてしまうと、わなわなと肩を震わせ始めたルイズに一礼して駆け足に限りなく近い早足で部屋を脱出した。 「おーいシエスタ、そんなに慌ててどうしたんじゃ?」 事ここに至ってもまだ、ジョセフは事態の重大さにこれっぽっちも気付いていない。 テーブルの上は綺麗に片付けられ、ジョセフが持っているフォークだけが残っていた。 入り口で立ち尽くしたままのルイズの肩が少しずつ震え始め、段々と大きくなっていく。 やっとここに至って何かおかしいということに気付いたジョセフが、フォークをテーブルに置いてルイズへと歩み寄っていく。 「どーしたんじゃルイズや」 ジョセフが声を掛けても、ルイズは答えない。 俯いたまま、肩を震わせているだけだった。 「おい、ルイズ――」 訝しげな声と共にルイズの肩に伸ばした手を、ルイズは勢い良く振り払った。 「触らないでッ!!」 「なっ……お前、いきなり何を――」 唐突な反応に声を荒立てようとしたジョセフの言葉が不意に途切れた。 俯いたルイズの頬を伝った涙の粒が、床に落ちたのを見たからだ。 「……出てってよ! あ、あんたなんかっ、あんたなんかっ……もうクビよッ!! どこにでもっ……どこにでも、勝手に、行っちゃえばいいんだわ!!」 そう言う間にも、涙の粒は次々と床に落ちて弾けていく。 しゃくり上げながらもただ拒絶の言葉だけを告げるルイズに、ジョセフは小さく溜息をついた。 「……ご主人様がそう言うんなら、しゃーないな」 部屋の隅に立てかけていたデルフリンガーを腰にぶら下げると、泣いているルイズの横を通り過ぎて部屋を出て行き、後ろ手にドアを閉めた。 閉じられたドアを涙で滲む目で睨みつけていたルイズは、遠ざかって行く足音が聞こえなくなってから、テーブルへとキッと視線を走らせた。 そこにあるのは、今しがたまでジョセフが持っていたフォーク。 荒々しい足音を立てながらテーブルに近付いたルイズはフォークをつかむと、叩きつけるように床へフォークを投げ捨てる。 それだけでは飽き足らず、澄んだ音を立てて床をはねるフォークへ力任せに杖を振り上げ、爆破した。 フォークが跡形もなく爆破されたのを確認しようともせずに早足でベッドに向かうと、枕に顔を埋めて、更に泣いた。 ただ悲しかった。ただ泣きたかった。 自分でもどうしてこんなに感情が昂ぶっているのか、少しも理解できない。 ただ、ジョセフがメイドと仲良さそうにしていて、メイドにあーんとしたフォークでパイを食べたのを目撃しただけだ。たったそれだけのことなのに、ルイズの中からは止め処なく悲しさばかりが溢れ続けていた。 何故こんなに悲しいのか理解できない。けれど、どうしようもなく悲しかった。 泣けば泣くほど泣くのは止まらなくなり、涙が出なくなっても嗚咽が止まろうともしない。 涙で湿った枕に顔を突っ伏したまま、泣き疲れたルイズはいつしか気を失うように眠ってしまっていた。 二つの月が鮮やかに輝く頃になった頃、ルイズはやっと目を覚ました。 眠気でぼやけた目で、広いベッドを見渡し――この部屋に一人きりであることをもう一度確認して……再び泣いた。 To Be Contined →